我が愛しの、ジェーン・バーキン ジェーン・バーキンと井上陽水のデュエット、東京でのランデヴーを振り返る。

Culture 2024.06.22

世界のトップアーティストたちがデュエット参加したアルバム『ランデ・ヴー』。声と詞の色男、井上陽水もそのひとり。2004年発売当時の対談を再録する。


アルバム制作にあたり、ジェーンは井上陽水の「カナリア」を一聴して気に入り、「カナリー・カナリー」として生まれ変わった曲でデュエットが実現したという。

240209_inoueyosui.jpg

ジェーン・バーキン(以下JB) 「カナリー・カナリー」を初めて聴いた時、メロディがとっても印象的で気に入ったの。ほかにも数曲聴いたけれど、自分をいちばん表現できるのはこの歌だ、って。
レコーディングの後、家に帰ってからも「カナリー・カナリー」がリフレインしてずっと頭から離れなかったわ。メロディが魅力的。

井上陽水(以下陽水) (ジェーンの歌を聴いて)素敵でした。普通のミュージシャンはリズムのルールにきちっとのっとって歌うけど、彼女は違う。自分のパーソナリティを出しているよね。それと集中力。これには驚いたな。

JB ありがとう! 本当は日本語で歌いたかったのよ。でもスタッフに止められたの。正しく歌おうとしても絶対間違ってしまうものよね。そんな歌を聴いたら、日本のみなさんは侮辱されたような気持ちになるわよね。それで翻訳された英語の歌詞になったの。その後、ムッシュ・イノウエから炭坑で毒ガスの危険を知らせるために、カナリアを坑道の入り口に置いたということを聞き、歌詞の深い意味を知ったわ。「カナリー・カナリー」は単なる歌ではないわよね。奥深く、哲学的。

陽水 ビートルズのいたイギリスに生まれて、ルーヴル美術館のあるフランスに暮らしている人が、僕の歌を歌う。Whatʼs wrong?(笑)。それがおもしろかったね。イギリスに住んでいたの?羨ましい。

JB そう。ロンドン生まれなのよ。

---fadeinpager---

陽水 オフィスにミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『欲望』のポスターを貼っているんだけど......もしかして出演していた?

JB そうよ。脇役なんだけど。

陽水 You! Let me check exactly!

JB ちょっとおかしな女の子がふたり出てくるの。私はブロンドのほうで、主演のデヴィッド・ヘミングスの仕事の邪魔をして誘惑する役。『欲望』は本当に貴重な映画。撮影当時のことはほとんど憶えてないけど、デヴィッドの優しさだけは忘れられないわ。

陽水 いい男だったよね〜。当時僕は高校3年くらいでして。ちょっと大人っぽい映画だったな。その頃、イギリスにはなんといってもビートルズがいて、デイヴ・クラーク・ファイヴ、スウィンギング・ブルージーンズがいて(笑)。1973年、初めてのイギリスでロンドンからリヴァプールに行って駅で降りたけど、まだ早すぎると街に出られず引き返しちゃった。電車でマージー・リバーを越える時は自然に涙が出たな〜。2度目の時はリヴァプールの街をしっかり見たけどね。その後、何度もロンドンに行っているよ。

JB 17歳の頃、よくアドリブ・クラブで遊んでいたわ。そこにはジョン・レノンもよく来てたのよ! 一緒に出かけたこともあるの。当時の日記を読み返したら「J・レノン、V・ナイス」とだけ書いてあったわ。つまり「ジョン・レノンとランチ。ベリー・ナイス」って意味。最初の夫、ジョン・バリーと出会ったのは、その後のことね。彼はヨークシャー出身だから北部訛りがあってそれが魅力的だったわ。彼とは19歳で結婚したのよ。結婚式にはかつての学生運動の仲間、テレンス・スタンプ、マイケル・ケイン、デヴィッド・ベイリーらが来てくれて。いまにしてみれば豪華な顔ぶれね。当時のモードといえばマリー・クヮントのミニスカート。そしてジーン・シュリンプトンがトップモデルだったわ。誰でもミニでキングス・ロードを歩けば最先端になってしまうという素晴らしい時代ね。60年代のイギリスはまさにルネサンスだったと思うの。

陽水 ビートルズ4人のうち、いまはふたりしかいないよね。当時を知っている貴重な人と会えて、ラッキー(笑)。

JB でも、日本はすべてが神秘的で刺激的。黒澤明の『七人の侍』は数えきれないくらい見ているし、小津安二郎の映画に描かれた古き良き日本にもとても惹かれるわ。オリジナルの「カナリア」を聴いて、ムッシュ・イノウエの本質や優しい気持ち、人を惹き付ける魅力を感じたわ。こうして話していても安心感があって。オリジナルなスタイルを作り上げているのに控えめな人柄で。言葉のセンスも素晴らしい。セルジュもそうだったからわかるの。歌で言葉遊びをしたり。遊びがあるから言葉って生きるのよね。かつてセルジュが私に「カナリアはバルコニーに」という曲を作ってくれたことがあるのよ。だから「カナリー・カナリー」はふたつめのカナリアの歌。これはとても不思議な縁よね。この縁は大切にしたいと思っているの。

陽水 こちらこそ。Thank you for long speech! (笑)

Yosui Inoue
1948年、福岡県生まれ。69年、アンドレカンドレの名でデビュー、72年に井上陽水として再デビュー。73年の「夢の中へ」が大ヒット。75年、アルバム『氷の世界』が日本初ミリオンセラーに。「いっそセレナーデ」「リバーサイドホテル」「少年時代」などヒットを続け、楽曲提供も。ジェーンが聴いた「カナリア」は、99年のベスト盤『GOLDEN BEST』より。

(フィガロジャポン2004年5月20日号より一部抜粋)

Indexthumb-500-bkpk-jane-burkin-index-2403.jpg

▶︎ジェーン・バーキン、永遠のファッションアイコンの魅力を紐解く。

*「フィガロジャポン」2024年3月号より抜粋

photography: Gen Murakoshi styling: Sachico Ito hair&makeup: Toshi for Ridicule (Commune / Jane Birkin), Tetsuya Sawada (Yosui Inoue)  text: Atsuko Nakayasu

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

シティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
編集部員のWish List!
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories